2007-01-01から1年間の記事一覧

『収穫祭』(西澤保彦)

収穫祭作者: 西澤保彦出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2007/07メディア: 単行本 クリック: 14回この商品を含むブログ (69件) を見る少年の頃、父親の本棚に並んでいたクリスティやクイーンが、ミステリの教科書だった私にとって、その棚の下に並んでいたカッ…

『スリザー』(ジェームズ・ガン)

バッドテイストの快作。ゾンビと物体Xとドリームキャッチャーを掛け合わせたような、粘液と触手と内蔵でおなかいっぱいな映画なのだけれど、らんちき騒ぎとも言えるこの惨劇の舞台が、アメリカ西部の片田舎であるというのが、説得力を持っていて素晴らしいと…

『犬身』(松浦理英子)

犬身作者: 松浦理英子出版社/メーカー: 朝日新聞社発売日: 2007/10/05メディア: 単行本 クリック: 32回この商品を含むブログ (106件) を見る女子高生が変身したい芸能人の、男性部門の1位はタモリだという。 「いっぱい芸能人に会えるから」というのがもっ…

『リベルタスの寓話』(島田荘司)

リベルタスの寓話作者: 島田荘司出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/10/06メディア: 単行本 クリック: 18回この商品を含むブログ (48件) を見るドメスティックな背景に、非日常の異物を配置する、昨今の島田ミステリの特色が楽しめるのは、むしろ荒唐無稽…

『サクリファイス』(近藤史恵)

サクリファイス作者: 近藤史恵出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2007/08メディア: 単行本購入: 5人 クリック: 139回この商品を含むブログ (328件) を見る 推理小説とは本来、人間の考え出したもっとも優雅な遊びの一つであり、すぐれた作家たちは洋の東西を問…

小西真奈展『どこでもない場所』

『二時間ほど歩いた頃から、あたりの風景は何だか異様に凄くなつて来た。凄愴とでもいふ感じである。それは、もはや、風景でなかつた。(中略)昔から絵にかかれ歌によまれ俳句に吟ぜられた名所難所には、すべて例外なく、人間の表情が発見せられるものだが…

『私の男』(桜庭一樹)

私の男作者: 桜庭一樹出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2007/10/30メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 429回この商品を含むブログ (458件) を見るどこまで、深い穴を覗かされるのか。絡まり合う蔦のように分かち難く結びついてしまった養父と養女が、世間…

尖 東京展「京都の呼吸力」(佐藤美術館)

京都の若手“日本画家”*1により結成されたグループの、はじめての東京での大規模な展示会。のびやかで個性的な作品に触れていると、自然と“かあぃらしい(京都弁ふうなつもり)”という思いが溢れてくる。現代美術から美術に触れるようになった、素人の鑑賞者…

『消えた天使 -The Flock-』(アンドリュー・ラウ)

【ネタバレあります】性犯罪の前科のある登録者を監視する監査官のリチャード・ギアが仕事熱心で、受けもちの登録者のところへ日参し、少しでも変態行為を見せようものなら容赦なく金属のパイプでめった打ちにする、という、たいへんバーバリアンなお話。 “…

『アートで候。会田誠・山口晃 展』続き

先日のエントリー*1に対し友人から、括弧つきの『現代美術』の文脈を意識しすぎる、と指摘があった。職業評論家であるわけでもないのだから、素直に絵に対し感動を表現すればいいのではないかと。ぶっちゃけてしまえば、私はこの展示を見て、そのコンセプト…

『アートで候。会田誠・山口晃 展』(上野の森美術館)

激しく会場との違和感を感じた。会場の、施設の古さ、に。なにも自分はいつも小奇麗な施設でしか美術鑑賞をしない、というわけでもない。六本木に行ったことはないし、木場は一回しか行ったことがないが、竹橋は年に数回くらいは行くし、割と好きな場所だ。…

『13の顔を持つ男 −伊丹十三の軌跡−』(日本映画専門チャンネル)

TV

勝手な思い込みだが、伊丹十三は厳然として『僕の伯父さん』なんである。父親の書棚にあった伊丹十三の文庫本を手に取った中学生の日々以来、自分のおよそあらゆる価値観は、あの洒脱で含蓄のある文章の影響を受けまくっている。いや、いたはずだ。 あれから…

『御巣鷹山』(渡辺文樹)

DVD、シネコン、HDR、ネットetc。ここ数年来、映画を取り巻く環境は全て、映画が個人によって所有され、好きなように消費される『コンテンツ』になることを要求した。この環境で受け入れられる映画とはつまり、それを消費されるモノであると意識した作り手に…

『デジャヴ』(トニー・スコット)

シャマラン以降の一連の底抜けアメリカ映画が好きだというのは何度か書いてきた。不可思議な謎やサスペンスで客を引っ張っておいて、ネタは宇宙人でした!とか幽霊でした!と徹底的に脱力させてくれるそんな愛らしいアメリカ映画たち。 でも配給会社は困るの…

『ナイト ミュージアム』(ショーン・レヴィ)

ゾロゾロと人でないものが蠢き出す映画はワクワクする。だから子供をダシに『ナイト ミュージアム(吹き替え版)』を見る。字幕版は戸田奈津子先生。ああ、『パフューム』『ラストキング・オブ・スコットランド』に続いて戸田先生字幕を楽しむ機会を失してし…

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』『世界の終わり、あるいは始まり』(歌野晶午)

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社ノベルス)作者: 歌野晶午出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/01/12メディア: 新書購入: 1人 クリック: 29回この商品を含むブログ (149件) を見る『テレビばっかり見ていると、今に尻尾が生えてくる』かつて賢人がそう宣…

影響を受けた映画はカサヴェテス

最近、フリーマッケットに加瀬亮君の本が出ていて、友人たちと眺めてたら「影響を受けた映画はカサヴェテス」と書かれてました。チェッと舌打ちして、みんなで「加瀬亮君がどんな映画を挙げてたらカッコ悪いか」を一生懸命考えていたのですが、結構難しいの…

『奇偶』(山口雅也)

ミステリとは、不安のドライブである。なんの根拠もないが、そんなフレーズが思い浮かんだ。 始まりは『夜にそびえる不安の塔』で http://d.hatena.ne.jp/beach_harapeko/20070225/p1 それを読んだ直後は、少しばかりの居心地の悪さを感じただけだったが、直…

『叫(さけび)』(黒沢清)

ブーンという空調かなにかの唸り。どこからか響いてくるコツコツいう音。古くなった蛍光灯が明滅するするときに発するノイズ。『叫(さけび)』で通奏低音の如く間断なく画面を覆うこうしたノイズは、不安をかき立てるSEとして、Jホラー以降おなじみの手法で…

『集合住宅の時間』(大月敏雄)

id:lovelovedog さんの日記にこんな記述があって ダラダラと本の整理をしていたら、こんな本が見つかった。 『私の小説作法』(毎日新聞社学芸部編・雪華社・1975年)…司馬遼太郎が歴史小説はビルの屋上から人を見下ろして書くようなものだ、と書いていたり……

『夜にそびえる不安の塔』(井形慶子)

ああやばい。超常現象に対する距離感はとりにくい。オカルトやら超常現象やら、そういうものがこの世にあるのかと問われれば、それは、あるのだろうなあと答える私である。とはいえ、自分がそのような現象を直接操ったり、見えないものが見えたりすることは…

『どろろ』(塩田明彦)

もはやこれは日本映画ではない。といってそれは旧来から日本映画とハリウッド映画の間に横たわるといわれる壁−桁違いの美術予算によるスケール感とか、CGのクオリティとかが見劣りしない、という意味ではない(見劣る 笑)。キャラクターがとにかく単純だ。…

『植物診断室』(星野智幸)

母親が『子供を産む機械』である、という政治家の発言が、批判の的にされ世間を騒がせた。これはマスコミにおいて、女性に対するスタンスが『扱いに慎重を要する』事項と認識されているがため、裏を返せばそこにある、男性優位の思想があるからこその『弱者…

『犬神家の一族』(市川崑)

過日、どなたかのブログを読んでいたら、新版『犬神家の一族』について言及されているその中で、「松子が戸棚に祀ってあるカワウソかなにかの絵に手を合わせ云々」とあって(うろおぼえですが)、ああ、カワウソかあ・・・と思った。あれは『狗神』なんです…

『鉄コン筋クリート』(マイケル・アリアス)

『パプリカ』との声優の比較で言うなら、二宮和也・蒼井優の起用からすでに、こちらはあいまいな輪郭の世界観を構築するのが制作上の意図だったのだろう。レトロ=ポストモダンのガジェットめいた街並をCGで精密に作りこんで、その上で自意識の揺らいだキャ…

『パプリカ』(今敏)

輪郭のはっきりした作画と、ベテランの声優による迷い無い演技という選択に如実なように、夢と現実が混在する世界観を描きながらも、作家の自意識が観客の自意識を作品鑑賞に巻き込むような“メタ化”の排除が徹底されている。 おかげで観客は映像の遊びを安心…

第136回芥川賞

http://www.bunshun.co.jp/award/akutagawa/ 芥川賞、23歳青山さん第136回芥川・直木賞(日本文学振興会主催)の選考委員会が16日、東京・築地の「新喜楽」で開かれ、芥川賞が青山七恵さん(23)の「ひとり日和(びより)」(「文芸」06年秋号、…

『硫黄島からの手紙』(クリント・イーストウッド)

先に断っておくと、ウチは家内と、その影響で息子が嵐の大ファンなのである。どのくらいのファンかというと、一週間にオンエアされる、出演する歌番組、ドラマ、バラエティ、NEWSゼロ、コンサートや会見があったときには翌朝のワードショーをくまなくハード…