『収穫祭』(西澤保彦)

収穫祭

収穫祭

少年の頃、父親の本棚に並んでいたクリスティやクイーンが、ミステリの教科書だった私にとって、その棚の下に並んでいたカッパノベルス小松左京大藪春彦等)はまた、家族に隠れ読むエロの指南書でもあった*1

昭和のミステリー=エロい、と言うのはあまりに大雑把な言い分なのかもだが、ノベルスというやつは、常に妙に艶っぽい(あるいは直裁にエロな)カバーに包まれているもので、スポーツ新聞同様、オトナの男の娯楽なんだなあという刷り込みが、私なんかにはある。(ちなみに男性器は女性器に挿入するものだということは森村誠一から学んでいる。)

『収穫祭』はそんな昭和ミステリーの風格ただよう、エロと荒唐無稽の大サービス編。ただし昭和の古に比べ、現代の娯楽作らしく残酷描写は100倍増。むしろ刺激の針が振り切れて、判断が麻痺したその感覚は、ナンセンスな漫画のそれに近い。

たとえばこんなふう。冒頭、嵐で閉ざされた寒村で起こる、連続殺人事件。訪れる家々に転がる虐殺死体に怯え、見えない殺人犯から逃れようとする高校生たち。やがて廃校へとたどりついた彼らの前に、突然校舎から、棍棒片手に全裸の男が飛び出してくる(本当)!ウォー!

小説の感想に、漫画を引き合いに出す安易さを承知の上で、あえて書く。

漫☆画太郎かよ!!!

以下、ニンフォマニアと化した生き残りの少女と、罪を背負わされた外国人英語講師の妹にして、隠密金髪スナイパーとの、レズと復讐と血の饗宴が繰り広げられるのだが、設定のあんまりなマンガっぽさに、「金髪・エロス・ミステリー」の取り合わせから想像される、作画・叶精作的な劇画世界ではなく、萌えキャラがひたすらアクロバティックな性戯を繰り広げる、昨今の成人指定コミックが想起される。主人公、ツンデレだし。金髪スナイパー、メイドだし。

しかし小説の屋台骨は、数年にわたる大量殺人の真相を追う骨太な本格構造がガッチリささえていて、そのうえでこの一冊を、新本格と萌えの相性を、昭和エロ・ノベルスの文脈!をもって強引に実証した意欲作ととらえることができるだろう。

ホントかよ。

*1:同じ棚に『家畜人ヤプー』とか、ロアルト・ダールの艶笑小説とかも置いてあったが。