山下洋輔&菊地成孔@ラブかな

音楽との距離、という話のついでに、更新休んでたあいだのことも書いておこう。
11日に、駒場東大構内で、山下洋輔菊地成孔のデュオをみた。
鷹揚な山下のピアノに対峙した菊地のサックスの『音』が、ダイレクトに感情に響いてくるような、ステージ上にみなぎる緊張感は、もちろんステージとの物理的な『距離の近さ』がもたらす臨場感でもあるだろう。
しかしその場に観客として、身動きもできず拘束されたまま、強制的に音を空気の振動として伝えられるというその状況が、もうひとつの、ステージと観客席との『距離感』を想起させる。
それは、菊地がMCで、山下との出会いについて語った、

山下さんにはじめて呼ばれて、横浜のライブハウスに行ったとき、狭い階段を昇っていく途中で、上の階から山下さんが、こんな(肘打ちなど)してガンガンやってるのが聴こえてきて、もう怖くって帰っちゃおうかと思った

このたったフロア一つ、ドア一枚隔てただけの距離の、途方もない遠さ、だ。
私たちは普段、音楽にまつわるこの距離感を、いまいましいものとして忘却する為に、音楽を嗜好として消費し続けている。
そしてそのことがますます、音楽にまつわる全ての人々の距離を遠ざけていく。

この夜のステージにみなぎる緊張感とは、その距離の存在をいきなり観客の眼の先に突きつけ、自らはその距離と格闘することで鮮烈な刺激を生み出す、いわば『音』の暴力であったのだ。