『激走 福岡国際マラソン―42.195キロの謎』鳥飼否宇

激走 福岡国際マラソン―42.195キロの謎 (小学館ミステリー21)

激走 福岡国際マラソン―42.195キロの謎 (小学館ミステリー21)

容疑者Xの献身』が直木賞を受賞した。これで『このミステリーがすごい!』『本格ミステリ・ベスト10』『週刊文春ミステリーベスト10』とあわせ、史上初の四冠となった。もういまごろ編集部には映像化のオファー殺到だろうが、これだけの話題作となると原作料もそれなりになるだろうし、役者だって一流どころを揃えなくてはで制作費が高騰。
どうしたって負けられない大博打映画となること必須なのに、脚本化はめちゃめちゃ大変、と映画会社はお気の毒なことだ。

鳥飼否宇『激走 福岡国際マラソン―42.195キロの謎』を読んだ。ミステリベスト10の選考には圧倒的に不利な(というか間に合わない)年末の刊行ということもあり、あまり話題に上っていない印象の本作であるが、傑作だと思った。
マラソンのスタートからゴールまでの道程を綴った構成で、これがちょうど2時間強で読めてしまうというページ数がまず素晴らしい。まさに読むヴァーチャル・マラソン。
敵との駆け引きや自分との戦いが、時にランナーの内面描写で、時に中継車からの実況でと多彩な視線で描かれ、マラソンというスポーツを描いた小説として第一に面白く、ここに突然発生した殺人事件が絡み、あっという大仕掛けがある。

鳥飼否宇はトリックを隠蔽する手法が理詰めで一筋縄で無い反面、手法が強引なので破綻しているという印象があったが、実はそれは短編という制約のためで、今回くらいの、中篇〜長編という長さでワンアイデア、というのが嵌ったのだろうと思う。

最後に誰が勝つのかは読んでのお楽しみ。一緒に走ってきたアイツが栄光に輝く瞬間を一緒に体感できて、感動すること請け合い。

何気に“隠れ一位”的な本作、原作料も安いだろうし、映画会社の人は是非ご一読を。