立ち読み@図書館

逗子市図書館がリニューアルしたのはよいけれど、週末となると利用者が多数押し寄せ、新刊書は端から借り出されるわ、館内の椅子はすべて埋まるわで、あまりゆっくりとは過ごせないのでちょっと不便。その分、蔵書予算を増やしてください長島市長。

■『文学界』10月号 http://www.bunshun.co.jp/mag/bungakukai/
春日武彦が連載開始。初回のお題はラブクラフト。略歴ののち、短編を紹介するのだが、その感想が『くだらないなあと思った』と書いてしまうのが春日先生の凄いところ。『くだらない』ものを書くラブクラフトの熱意に焦点をあて『独身者のセラピーとしての怪奇小説執筆という治療も面白い』と話題が移って爆笑。ぜひ現代作家も取り上げて欲しい。
『シネマの記憶喪失』で青山真治だったかが『ミリオンダラー・ベイビー』と『ライフ・アクアティック』を共に老人が若者を弔う映画と言っていて、それはつまり911で、アメリカの老人が作って来た社会構造が、若者を犠牲にしてしまった鎮魂だ、みたいなことを解いているのだがそれはさておき、この二作は裏表だなあとは思っていたので興味は惹かれる。
僕が感じたのはイーストウッド(世代)とアンダーソン(世代)の男の覚悟のありかたの違いで、イーストウッドはリーダーとして、すべての責任をかぶりまくるから黙って見ていろ俺の後ろ姿という自意識がぷんぷん、対してアンダーソンは、部下や家族やスポンサーや競争相手から全部に愛されて甘やかされることでようやく船に乗ることができる船長を描き出すことで、覚悟の不可能性を暴いてしまっている。なんだか年々子供じみていく、日米のリーダー像の変遷をそこに見るようで、妙に座り心地のわるい映画だったなと思い直す(同行した女性は激怒していた)。

■『稲生モノノケ大全(陽之巻)』ISBN:462010695X
妖怪大戦争』で荒俣宏京極夏彦がコスプレしてた『稲生物怪録』をテーマにした、現代作家書き下ろしアンソロジー。
さすがに重いので気合いで椅子をゲットして、宇野亜喜良の絵本(イラスト)と津原泰水だけ読む。
しかしこの大きさで5千円という価格は安いのではないか。古本なら3千円程度。って目方で本を選ぶのもどうかと思うが。
上巻(陰之巻)には杉浦茂の『八百八たぬき』がまるごと収録されている。『杉浦茂ワンダーランド』のその巻を持っていないのでちょうどよいかも。
http://www.kinsai-e.com/mononoke/monogatari.htm

■『ユリイカ』9月号 http://www.seidosha.co.jp/eureka/200509/
特集*水木しげる京極夏彦との対談と、四方田犬彦『戦中派水木しげる』読む。
四方田犬彦、渾身の原稿ではないか。水木しげるが戦争を如何に描いて来たか、作品歴を詳細にあたりながら、同工異曲とそのわずかな差異に目をくばりつつ、真のテーマとそこに至る水木の戦略をあぶりだしていく。
本当に気が入っていたようで、文中ずうっと『水木は〜』で通していた呼称が最後のほうで『水木先生』に変わってしまい、中学のころ手紙を送り、色紙が返送されて来たエピソードが披露されるにいたり、この論文自体が実は水木しげるに捧げるラブレターであることがわかる仕組み。