今年の3冊

さよなら妖精』(米澤穂信東京創元社 ISBN:4488017037
『ロンリー・ハーツ・キラー』(星野智幸中央公論社 ISBN:4120034860
『パイの物語』(ヤン・マーテル竹書房 ISBN:4812415330

えいや、っと決めてみる。

■『さよなら妖精
『萌え』ということばでいいあらわされる、対象との具体的な距離を欠いた、愛情とはとてもいえない幼稚で一方的な『興味』は、その空虚さ故にそれを抱くものに後ろめたい罪悪感をつきつけてくる。
その居心地のわるさにひらきなおり、現実との距離感を欠きながらちいさな身の回りの世界をのみ無批判に肯定する人々により、ないがしろにされた『距離』は時に対象への暴力や冒涜という形であらわれる。
ユーゴスラビアからの留学生・マーヤに『萌え』ることしかできない高校生は、理想の祖国建立のために、内戦の戦火やまぬ母国へ帰国する彼女の世界との圧倒的な『距離』を感じて狼狽する。
なぜならその『距離』を縮める行為とは、『萌え』で守られた自分の世界を逸脱することであり、そのとき自分の属した世界から暴力を受けるのは、他ならぬ『距離』をおいた自分であることに気付くからだ。
あたかもイラクにむかった人々にむけられた『普通の人たち』の行為のように。
リアルな戦闘地域にむかう『戦闘美少女』のフォーマットを導入し、現実世界での『萌え』のあまさとあやうさのあいまで揺れ動く、青春エンタのもうひとつの『経過報告』。

■『ロンリー・ハーツ・キラー』
そしてその行く先をめざしたとき、作家は寡黙になる。
http://d.hatena.ne.jp/beach_harapeko/20040223

■『パイの物語』
動物を擬人化するのことで、人間は動物に良い行いをしたと思いがちだ。
現実を物語化するのことで、人間は現実を正しく認識したと思いがちだ。
しかし動物は人間とはまったくことなった生物なので、人間の思惑など動物には通じない。
しかし現実は人間には決して認識できない事物なので、人間の思惑など現実には通じない。
だから人間は持てる全ての力を使って動物を御さなければならないし
そして人間は想像力をありったけ振り絞って現実を物語らねばならない

ヒンドゥ教、イスラム教、キリスト教の3つを同時に信仰したインドの少年が、
太平洋の真ん中で、小さな救命ボートに人喰い虎と共に漂流するはめになったとき、
彼が懸命にしたこと、それは人智を超えた生物と共存する戦いであり、この想像を絶する現実を物語りつくすこと、それはつまり生きることだった。

彼が本当に生ききることができたとわかる、物語が現実を凌駕する終章は圧巻!

http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20041219