『女王国の城』(有栖川有栖)

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

12月末読了。世に言われる「端正な論理」というのが何を指すのかがわからないが、登場人物の感情が比較的穏やかで、淡々とした描写をして「端正な」と形容するのならわからないでもない。大脱走あり、山狩りありの大活劇絵巻でありながら、だ。理由のひとつとして、登場する新興宗教の信者の「まっとうさ」が、当然舞台となる80年代の宗教団体ときいて、私たちの想像する「粗雑さ」とかけ離れている、その違和感にあると思う。こうした、体温の低い「まっとうな人たち」による宗教団体が登場するミステリとして、森博嗣を連想したのだが、あちらの中心人物の人間離れした論理=狂気に魅かれる私としては、狂気までもが端正な描写の中に収まってしまう本作は、少々食い足りなかった。