『レコード輸入権』

昨日コメントした『レコード輸入権』、正確には「日本販売禁止レコード」の還流防止措置に関して、いくつかの資料に目を通してみました。

尚、この件を知った時点での私の意見は
『俺、日本のアーチストのCD買わないし。輸入盤の規制なんて、外資系大型レコ屋や、海外のメーカーの反対で出来るわけないじゃない』
てなくらいでした。

なので、

『輸入盤を「非合法化」する著作権法改正』
http://japan.cnet.com/news/pers/story/0,2000047682,20062931,00.htm
にあった

こういう権利ができると、たとえば東芝EMIは、ビートルズのCDの輸入を禁止したり、輸入盤に「輸入権料」を課したりできるようになる。

という件に『のみ』関心を絞っています。

さて、

文化審議会著作権分科会報告書(案)
http://www.mext.go.jp/b_menu/public/2003/03120901/002.htm
を読むと

他方,日本の音楽レコードの還流の実態にかんがみ,還流防止のための何らかの措置が必要であるという状況については概ね理解できるとしつつ,現段階での導入には慎重に対応すべきとして次のような意見が出された

とある項の中に

著作物に係る内国民待遇の原則や諸外国との関係などを踏まえると,日本の音楽レコードと欧米諸国等の音楽レコードに係る保護水準を異にすることはできず,日本の音楽レコードの還流のみならず,欧米諸国等の音楽レコードの当該国からの輸入にも影響を与える可能性があり,欧米諸国等の音楽レコードを含めた還流防止措置の導入については,理解が得られていない

???よくわかりません。

そこで調べると、COOPのサイト
http://www.co-op.or.jp/jccu/information/inf_031219_01.htm
に、レコード輸入権に関する意見交換会議事録」がUPされておりました。
ここより一部抜粋すると、

吉川(文化庁
それから、法案の検討ですが、これは検討する際のポイントとして、いわゆる並行輸入に関してはできるだけ影響しないようにしようということです。まさに日本でつくったレコードが海外に出ていったときに、それが還流しないようにすることが目的です。アメリカのレコードについて言えば、アメリカからそのまま日本にくるときに、それをブロックしてしまうようなものはまずいだろう。アメリカが中国にライセンスしたものが日本にきた場合には、それは止められるかもしれない。できるだけ既存の流通ルートへの影響を少なくするような法的枠組みはできないかということで、一生懸命いま我々の課のほうで考えています。

あれ、『日本の』レコード会社が、アジアの企業にライセンス供与した製品に関わる話じゃなかったの?【一生懸命いま我々の課のほうで考え】ないといけないような問題なのかな?

松尾(公正取引委員会

もう1点、レコード協会のほうからのご説明にもございましたが、洋盤の輸入がどうなるのかということです。法制上は、止めるのは日本盤、邦盤だけで、洋盤は止めませんという制度設計はできないだろうと考えています。したがいまして、何らかのかたちで事業者間の事実上の約束のようなことで洋盤は止めないと言っていますといったところで、向こうが止めようと思えば止めることができるということになってしまいますので、実際にそうした海外のレコードメーカーが輸入権を行使する可能性は当然排除できない、止まる可能性はあるということも問題になるのではないか。

生野(日本レコード協会常務理事)

並行輸入盤に関して影響しないという、その洋盤の扱いの問題ですが、これもレコード協会がご提案させていただいている権利の中身は、内外無差別ということで、日本のレコード製作者、海外のレコード製作者、両方とも権利が与えられるというところで考えております。
ただ、先ほど申しましたとおり、現実にタワーさんやHMVさん、ヴァージンさんと、そうした外資系のお店、あるいは新星堂さん、山野さんといったナショナルチェーンで欧米からの並行輸入盤が非常にユーザーの支持を得ているというところで、現実にマーケット的にもその並行輸入盤と、それから日本のレコード会社がライセンス許諾を受けて日本でプレスしている洋盤、両方が共存しています。
このビジネススキームに関しては、これまでどおり維持したいというか、これは各権利者、個別の権利の問題ですので、レコード協会がこうしますとはなかなか言える問題ではございません。これは公取さんのほうからもご指摘されているとおりです。
これはアメリカを中心とした5メジャーの権利者、レコード会社が日本のライセンシーといろいろ協議をいたしまして、先ほど来申しましたとおり、現行のビジネススキームを維持する、要は、並行輸入盤に関してはこれまでとおり、日本においても販売するというお話を聞いております。そういう意味で申しました。

どうやらこの【内外無差別】というのが肝のようです。
つまり国際法上、『日本の』ライセンス供与者が輸入をコントロールできる以上、『日本に』ライセンス供与した業者もまた、同等の権利を有しなければならない、ということですね。

こんな議事録もありました
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/03092501.htm

説明者:◎、委員:○

○:洋盤は従前どおりという話だが、法的にはどのようなテクニックを用いるのか。例えばアメリカで製造されたレコードと、アメリカのレコードが中国で製造されたものとをどように区別するのか。また、区別した場合、国際条約上、問題はないのか。

◎:制度上は権利付与については内外無差別という形で考えている。権利者が止めたいのであれば、当該地域のみの販売という表示をし、権利行使しない場合は、その表示をしなければよい。但し、洋盤についてはインターナショナル5メジャーから、止めるようなことはしないという言質を得ている。

○:それは単に「止めない」と言っているだけで、止める気になればできるという権利をになるのか。

◎:基本的には「止めること」は可能ということになる。

○:つまり、内外無差別にしなければいけないので、法律上は世界中の真正商品を商業レコードに関して止めることができるということになるということか。

◎:法律上はそうである。ただ、実際の運用では5メジャーの協力を得て現行ビジネススキームを維持しようということである。

ふうむう。
今、上記にある『インターナショナル5メジャー』が、日本での洋盤販売のスキームをどうとらえているのか知りたいところです。
つまり、日本法人へライセンス供与した『邦盤』と『輸入盤』が価額差のあるまま店には置かれている。もちろん日本法人は『邦盤』が売れないことには忸怩たる思いでしょうがしかし、『インターナショナル5メジャー』にとっては、『邦盤』売上からのライセンス料と、『輸入盤』売上からの利益の合算がより大きければそれでいいわけですよね。

で、これを読む。

文化審議会著作権分科会報告書(案)」に関する意見(小倉弁護士パブリックコメントの草案)
http://www.ben.li/article/PubCom200312.html

すなわち、輸入権が創設されるまでは輸入権をあたかも専ら「経済状況の異なる国からの日本のレコードの還流を防止する」ために用いるかのように説明しておきながら、ひとたび創設されたら洋楽CDの並行輸入を水際で食い止めるために輸入権が行使されるおそれが高い(中略)実際に問題となるのは、アメリカやドイツなど他の先進工業国で現地の物価水準に合わせた価格で流通している商品が並行輸入されることの可否をめぐってである。このような問題が起こるのは、日本国内在住者に対しては、欧米在住者よりも高い価額でしか自社の商品を売りたくないとする欧米系の著名ブランド企業(ないしその関連企業や輸入総代理店等)が日本向け商品の販売価格を顕著に高く設定するからである。

このことは、音楽CDについてもまさに当てはまっている。例えば、アメリカでは、The Beatlesの「Let It Be Naked」を12.98ドル(約1400円)で購入することができる。イギリスでは、8.95ポンド(約1700円)で購入することができる。これに対し、株式会社東芝EMIは、「Let It Be Naked」の日本国内向け版の定価を2800円(税込み)と設定している。平成13年度の東京とNew Yorkとの間の内外価格差が1.26倍であった(平成15年版 国民生活白書より)であったことを考慮に入れたとしても、実売価格で約2倍という価格差は「顕著」な違いと表現するに値するものである。

「Let It Be Naked」の日本国内向け版の定価が2800円であるのは、
日本国内在住者に対しては、欧米在住者よりも高い価額でしか自社の商品を売りたくないとする欧米系の著名ブランド企業(ないしその関連企業や輸入総代理店等)が日本向け商品の販売価格を顕著に高く設定するからというより、日本の版元である東芝EMIが、自社製品の価額を、国内市場において維持するための措置ではないでしょうか。

また、英米系のレコード会社は、英米国内向けには通常のCDの規格(CDDA規格)を遵守した商品を出荷するのに対し、日本国内向けには、日本国内の系列レコード会社に、通常のCDの規格を遵守しない欠陥商品(コピーコントロールCDまたはCCCDと呼ばれている)であるコピーコントロールCD規格で商品を出荷している(前述の「Let It Be Naked」も同様である。)。そのため、購入したディスクは確実に再生して聴きたい、あるいは購入したディスクをデッキに入れて再生するということのためにCDプレイヤーを破損するリスクを負いたくない、あるいは、CD等の再生機器としてはパーソナルコンピューターしかもっていない又は使いたくないという消費者は、並行輸入されたCDDA規格が遵守されている英米国内向けのCDを購入する傾向がある。

すなわち、英米系のレコード会社は、系列ないし提携関係にある日本のレコード会社を通じて、「再生できるかわからず、プレイヤーを破壊してしまうかも知れない」欠陥商品を、英米国内におけるCDの価格よりも顕著に高い価格で日本在住の消費者に販売するという営業政策を採っているわけであるが、並行輸入を阻止できない場合、消費者側でそのような高くてリスクのある商品を回避することが可能になってしまう。それでは、英米系のレコード会社の意図が完全には実現されないこととなってしまう。ところが、商業用レコードについて輸入権が創設されると、英米系のレコード会社は、これを行使して並行輸入を差止めることによって、日本在住者に対し、「再生できるかわからず、プレイヤーを破壊してしまうかも知れない」欠陥商品を英米国内におけるCDの価格よりも顕著に高い価格にて購入するように迫ることができる。

なるほど、ここに到ってようやく
こういう権利ができると、たとえば東芝EMIは、ビートルズのCDの輸入を禁止したり、輸入盤に「輸入権料」を課したりできるようになる。
という意味が理解できました。
つまり【輸入を禁止】したり【輸入権料】を課すのは、英米系のレコード会社の意図であり、日本法人にのみライセンス供与した製品の販売させることができる(結果として)、ということですね。

疑問.このような法律が制定されない限り、英米系のレコード会社は日本から輸入レコードを締め出すことができないのか?HMVにせよTOWERにせよ、別に海賊盤を販売する会社ではないので、英米系のレコード会社(本社)となにがしかの契約の元に輸入業務を行っているのではないのか?ならばここで価額調整なり出品調整が行われることは契約として可能だろう。だとしたら、現行の輸入レコ屋における低価格は、先ほど書いた『邦盤』売上からのライセンス料と『輸入盤』売上からの利益の合算が最適になるよう、英米系のレコード会社(本社)が計算した結果ではないのか?

単純に還流防止のための法整備ではない(意図しなくても)、というのがいまのところわかったこと。時間半端なのでつづきはあとで書く。