うなぎフライ

昨日行った居酒屋は、日本酒に関してはこだわりがあって、季節季節の美味しい純米酒やら吟醸酒やら濁り酒やら何十種類もいつも取り揃えているくせに、食べ物に関しては今ひとつ一本通った所がなくて、若い従業員が思いついたとおぼしき創作メニュー(納豆オムレツとか塩辛豆腐とかそういうの)が、店に行く度次々と現れては消えていく、まあ『美味しんぼ』よりは『クッキングパパ』みたいな店で、それは肩に力も入らずいいんだけれど、昨日の『本日のオススメ』でススメられるがままに注文した『うなぎフライ』が、う、うまい
そこでこの欄で皆様方に、如何にこの『うなぎフライ』がうまいものであるかを、私の作文力の限界まであらゆる修辞と美辞麗句をもってして活写しつくさんと半日考えていたのだが、浮かんでくるのは口中に芳しく残った歯ざわりと味の余韻のみで、なにせうなぎの蒲焼に衣つけて揚げただけというこの料理ともいえない料理に対し、それ以上の言葉を持たないもどかしさばかりが募るうちに、見よ、仕事もせずにそんなことばかり考えていた罰が当たったのだろう、大雨で電車止まっちゃってて帰れないよ!
さて、南方の島々には、うなぎを食すことをタブーとする信仰がある。何故ならうなぎは海神の化身であり、特に身の丈の長大なものや、言葉を話すうなぎを捕らえ、これを食べようものなら、たちまち大地が割れ水が湧き上がり、洪水が村々を飲み込むのだという。
以上は『「物言う魚」たち 鰻・蛇の南島神話』ISBN:4093860394物で読んだ話。この本は南方の島国に遍在する水棲動物の姿を借りた、海霊や水霊の信仰の系譜が遠く日本にまで及ぶことだなあという真に面白いものなのだが、読んでいて引っかかるのがこれら民話・神話の採取地である島々の名前が、『ニューブリテン島』だの『ビスマルク諸島』だのほとんどが欧米名で、ようはみな元植民地であって、なおかつ先の戦争における激戦地であったわけだ。それで最近日経に連載されている水木しげるの『私の履歴書』が、まさに今日、終戦の時の話になっているのを読んで、ようやく今日が何の日であるか気づくような弛んだ日本人に、英霊の乗り移った南方諸島のうなぎの大群がお怒りになって、祖国に大雨をふらせて沈めてやろうとしているのだ!と、むりやりこじつけてみる。
ところで、水木サンのエッセイにある、腕を切り落としたあとの描写がすごい。

切り落とした左腕の傷口から、おっぱいのような「赤ん坊の匂い」がしてきたころ、ココボからナマレという所にある野戦病院に移された。