『ユリイカ 黒田硫黄特集』

ユリイカというからにはきっと、ヒョーソーからコーゾーをカイタイしてインユのキョウドとカイラクをガイブにモトメる主体=われわれがあるのではなかろうか?というNGワード満載の持論が横溢しているに違いなく、それらをお金を払って読むのはどうかなと躊躇しながらも購入したのは、ここにそんな罠にはまった『持論』の悪口を書いてやろうという魂胆からである。

ので、本書対談中にある黒田氏の発言

『(ネットで検索件数が多いのは)それはネットで日記書く類の人にピンポイントで当たっているということで、それは全然メジャーじゃ無い(笑)』

の、特に『(笑)』の部分に、自分のヤラシイ魂胆を見透かされたようで肝を冷やし、これは謙虚に眼を通さねばと姿勢を正し通読すれば、マトモに『罠』にはまって読むのが苦痛なものも数編見受けられながらも、『黒田硫黄全著作解題』は丁寧な調査の合間に短く鋭い持論を挟み、良い仕事しているなと感心した。

また四方田犬彦は正に『ユリイカ的な』評論を書いているのだが

『天狗とは何だろうか。それは人間の(読者の)視線を強引に上方へと向き直らせてしまう力に他ならない。』

というフレーズには思わず
『強引なのはお前だろっ!』と突っ込まずにはいられない(笑)もはや確立された芸を見せられたようでさすが四方田先生。

ところで私が一番衝撃を受けた新情報(マニアには既知だと思われるが)は、

黒田硫黄は双子の片割れ

という話で、これは電車の中で思わず声をあげてしまった。

以前の黒田硫黄女性説があるので安易に『だからあーだこーだ』とは言い難いのだけれど、黒田漫画への双子出現数は結構多くて、しかも両方が知らないうちに入れ代わったり、なんでそこで双子なの?というのがはっきりしなかったりするので、ひょっとするとその双子の、どっちがどうでもどうでもよさげな感じと、黒田漫画を読むときの読者の気負わなさは、どこか通じるところがあるんじゃないの?と、誰か『双子』について触れてないか本誌を読んでいたなかでの、黒田氏本人の発言だったので、まさに『我、発見せり!』。

ところで、読者としては勝手な妄想を膨らまし、キャラや物語に感情移入しつつそれこそネットにでもなんにでも書くことは許されても、『セクシーボイス アンド ロボ』のセリフ

『意志でなく、才能が行く道を選ぶ。』

の域に達した人間や仕事について---つまりそれは黒田自身のことなのだけれど---はやはりそれなりの覚悟がいりそうだと分かったのも、本誌の収穫。

私はどうも、そんな覚悟を決めるより、白旗を挙げてひたすら黒田漫画に没入していたいので、ハンチクな持論など持たないことに決めたのである。そして本誌原稿の約半数くらいも、結局のところ

黒田硫黄は面白いなあ

としか言っていないのもまた、微笑ましくて良いのではないかと思う。