※危険ですのでマネしないでください

これが俺の芸風だ!!―上島竜兵伝記&写真集

先ほどテレビにダチョウ倶楽部が出ていて、「竜ちゃんに熱いおでんを無理に食べさせる」というネタをやっていた。
それ自体見慣れた、おなじみのアレって感じなのだが、よく見ると画面に字幕で「※危険ですのでマネしないでください」みたいなのがでてる。

こういう字幕は、例えば武芸者が炎の上を歩くとか、魔術師が剣を呑込むとか、鍛錬を必要とする達人の技を見せるときに、これは素人がやると危険ですよ、と、テレビの前の無知な(とテレビ局が思っている)視聴者、言ってみれば、分別のつかない(とテレビ局が思っている)子供に告知するものだったはずだ。

昔から熱湯風呂とかひょうきんとか、さんざん繰り返されて来たネタに、今この時期に「※マネしないでください」という字幕を出すことの意味はむろん、昨今の「いじめ」流行りへの配慮なわけだろう。

ところで、今どきの子供が、テレビで見たからと言って、火に飛び込んだり、棒切れを呑込んだりするのだろうか。昔ならともかく、昨今のお父さんお母さん世代(つまり我々同年代)にとって、テレビは絶対の価値観ではない。テレビなんかに騙される私ではないぞ、と、こころの中で思って、テレビの中の出来事を、ちょっと斜にかまえて、馬鹿にして見ているのではないか。
そんな時代の子供たちには、あの火の上を歩いてるのも、剣を呑むのも、もちろん芸人が苛められるのだって、みんなトリックだったりヤラセだったりなんてことはマルっとお見通しだろう。

それよりも、子供達がしっかりと見ているもの、それは「※マネしないでください」という字幕を出す背景にある、「まあ、これを出しておきゃ、とりあえず責任とらなくていいよね」という作り手の気分、ではないだろうか。
それがあまりにテレビの現場の人を卑下したように聞こえるなら、配慮や親切という言葉や態度が、ほんとうに相手をおもんぱかってのものではなく、自身の保身を目的にしたものにあふれているという今の社会の気分、と言ってもいいだろう。

いつ、自分に降り掛かってくるかもしれない、バッシングへの恐怖が、社会に蔓延して、大人たちを萎縮させている。保身に長けたものたちは、常に多数派として周囲に同調を求め、異端のものをヒステリックに排除する。その恐怖から逃れるために。

そして確実に、その気分を、子供たちは学校という自分達の社会において、模倣するに違いないのだ。

さっきまで、芸人イジメとその言い訳を映していたテレビの画面が、ニュース番組に切り替わっている。その画面のなかから、キャスターが、いくら神妙な顔で「自殺だけは、思いとどまってください」と話しかけたところで、その言葉が子供たちに届くとは思えない。