賞雑感

芥川賞
『土の中の子供』?
煙か土か食い物』と『暗闇の中で子供』をあわせたみたいなタイトルじゃないか。まだ芥川賞舞城王太郎の呪いに取り付かれてるのか。中村文則は是非授賞式で「こんにちは、舞城王太郎です」とやってもらいたい。嫌味で。あとはじめて受賞者の顔写真を見たが、もしかしてこの賞は隔回でルックスで選ぶことにしたのかもしれない。それなら納得もいく。正直興味を引くライナップでもなかったのでこの程度の感想しかない。

直木賞
『花まんま』ISBN:4163238409

読んだときはそこそこ面白かったし、でも1960年代うまれ特有のノスタルジー幻想−つまり物心ついたときには既に世の中はニュータウン時代で、懐かしい昭和の匂いなどは実際に見聞きした記憶は薄く、80年代サブカルが好んで取り上げたレトロというモチーフに影響された、ノスタルジーに対するノスタルジーを共有することが前提とされる作風だったので、世代の上の人たちには薄っぺらく感じられるかとも思っていたが、その擬似ノスタルジー世代(ポスト万博世代と言っていいか?)すらすでに40代であり、文学・漫画・音楽その他作り手の主流になっているということを考えれば、なるほどと思わないでもない受賞。
しかし『空中ブランコ』のように映像化が望めるでなく(「世にも奇妙な物語」の1エピソードならありそうだが)、角田光代のように多くの出版社が過去作品の増刷で潤うようなハピネスがあるでなく、そういう観点で選ぶなら古川か恩田だろう、まったく賞の戦略性が見えない。などと筋違いの文句を言うのは、朱川湊人のまとった、その世代に阿った部分に少しばかり嫌な感じを受けつつも、すんなりのめりこめてしまうという自己に対する嫌悪を感じていたりするからだ。

『ベルカ、吠えないのか?』ISBN:4163239103

何でも漫画にたとえないとモノも語れないのが情けないことに60年代生まれの特色である、と自分の能力のなさを世代論にすり替える私の卑近さはさておき、まるでビックコミックの漫画のような面白さだった。犬視線の放浪譚は白土三平の劇画のようだし、大歴史に奔放される眷属の物語は手塚治虫の手法を髣髴させ、扮装地帯の情勢をこれでもかと織り込んだ緊張感あふれるストーリーは、ゴルゴ13浦沢直樹のそれを思い起こさせる。社会派のようで読み終わると何も残さない(残そうとしないふうに振舞う)文学臭さを排した作風もまた、よく出来た漫画を思い起こさせ、しかし考えてみれば、人生の大切なことはみな漫画で教わってきたよなと思い当たれば、この作品の素晴らしさもまた、後日体内より染み出してくるのだろうと思う。