『三丁目の夕日』と光の塔

http://d.hatena.ne.jp/beach_harapeko/20050708/p2から続く)

ここで少し脱線して、こんな動画を見てみたい

【『ALWAYS 三丁目の夕日』特報2】
http://www.always3.jp/

冒頭、路面電車から見た目とおぼしき、レトロなビルを見上げる移動ショットに立ち現れる、建築中の東京タワーの姿に、少なからぬ興奮を覚えた。

気がつくと、いつもの街並の背景に巨大な見慣れぬものが立ち上がっている。それまでの日常を視覚的に構築してきた遠近法を完全に無効化する、縦方向の暴力的な導線。高層建築が驚異的な勢いで次々と立ち上がり、誰もその概観を捉えることすら出来ない現代の都市の住民には想像もつかないが、19世紀末のパリの住人が目にした建築中のエッフェル塔は、巨大生物さながらにゆっくりと立ち上がる怪物的なしぐさで、見上げる人々へ巨大なものへの根源的な恐怖を呼び起こし、おののきと困惑を以てその圧倒的な科学の力を誇示したことであろう。

昭和33年の日本においては、さらに生々しい『見上げる恐怖』が人々の記憶に残っている。その恐怖は4年前に、巨獣の姿で再び首都を炎の海に変えたばかりだし*1、12年後、すでに恐怖は去った、世界は進歩と調和に満ちていると喧伝される科学の広場の真ん中で、それは歩道のコンクリを裂く新芽のように、科学技術の天蓋を突き破り、巨大な奇態を天に向かって伸ばしながら『俺を忘れるな』と叫ぶのだ*2

『ALWAYS 三丁目の夕日』の予告編は、最後に夕日の沈む町に佇む塔を再び捉える。そのビジョンは、空襲で燃え上がる町を思わせる。あの日、空襲の難を逃れた人々が、たどり着いた丘の上から振り返り、炎に包まれる町の姿に見た、焼夷弾と照空燈とが天と地とを結ぶ光の線分。その光の塔の足元で、多くの人々が空を見上げながら死んでいったことを、逃れてきた人々は知っている。昭和33年の日本人であれば誰でも、塔の足元には死のビジョンが犇いていることを知っていたのだ。

そのビジョンは21世紀初頭、ついにアメリカに降り注ぐ。

*1:http://www.museum.comet.go.jp/hasegawa/manyu/godzilla.htm

*2:http://d.hatena.ne.jp/ending/20050710#p1