邦楽叙事詩「スサノヲ」その3

http://d.hatena.ne.jp/beach_harapeko/20050518 より続く
<<第二幕終了>>
「(後ろの席の子どもに)おーい、怪獣は楽しかったかー!」
「先輩、よその子に馴れ馴れしく声かけないほうがいいですよ!親御さんに睨まれてますよ!」
「だって、パンフレットに“今度の舞台では八岐大蛇の造形が楽しみ”とか教授が書いているし、どれだけの物が出てくるかと思えば・・・段ボール細工かよ!日比野克彦気取ってヘタウマかよ!子ども引いてるし!」
「学生さんの作品ですから、仕方ないのでは・・・」
「しかし、実相寺昭雄が演出していて、あの怪獣でいいのか!?金がないなら、円谷プロから借りてくればいいだろ!そのために呼ばれたんじゃないのか!?*1
二幕目は八岐大蛇退治のくだり。手作り感にさえ眼をつむってしまえば、長崎の龍や中華街の獅子舞のごとく、若い日舞連に操られた大蛇が、狂言の振り付けでわっしわっしと剣を振り回すスサノヲと対戦する場はなかなかにダイナミック。クシナダヒメとスサノヲの婚礼の舞も、まるで『タイタニック』の船の先端みたいなポースをふたりでとったりして、ケレン味あふれた演出がたっぷり。最後は、まもなくの神田祭三社祭でも活躍するお囃子縁者による祭囃子で締めくくられ、実は結構、楽しめたのだが。
「勿体ないんだよな、これ、結構面白いのに。関係者以外に、ほとんど知られてないだろう」
「興行やっても人が呼べるメンツなんですけどね」
「一応、独立採算制をとれという方針を受けたものなんだろうが、主宰者に興行がなんたるものか、まったく関心があるとは思えなかったな。大体、なんで“見目麗しき”クシナダヒメが、あんなに経験を経たベテランの女性・・・」
「わー、だからババアとか言わないでくださいよ!・・・って僕が言っちゃったじゃないですか!」
伝統文化の保護と継承、という芸大にとって創立以来の大前提が、少なくとも邦楽であるとか能狂言などに関しては、興行に先んじるのはいたしかたないことなのか。なんでも資本原理で文化政策を進めようという東京都知事のマチズモにも頭が痛いが、しかしあんまりにも社会と隔絶している『伝統芸能』では、社会にとって無用の長物と断じられてしまうだろう。
「だからといって、よくあるロックやフュージョン調の津軽三味線みたいなやつ、あーゆーのも大嫌いなんだがね!」
「なんで、あれ、むかつくんですかね!?」
「このあいだ、松岡正剛のサイト読んでて、なるほどと膝を打ったんだが、前衛書道みたいのが戦後すぐに海外で受けてしまったので、日本美術が妙に作務衣チックなオリエンタリズムなものとして受け入れられてしまったんだな。*2それ以降、そういう安直なオリエンタリズムの切り売り“アート”というのが、陳腐化していながら結構な数、生き延びているわけだ。よくいるだろう、作務衣でヒゲで長髪の初老男性で、ちょっと神秘的な音楽や、日本の精神をあらわすアクションペインティングなんかやってる輩。相田みつをや鶴太郎なんかの絵手紙文化も、その系譜に連なるんだろうな」
「でも先輩、こないだ地元の芸術家の人たちと一緒にバーベキューとかしてたじゃないですか」
「ま、まあ、そういうオリエンタリズムに、レイヴ文化やエコロジー、ヒッピー文化が渾然一体となった“アート”というのも、実に日本的な芸術の一形態としてあるわけで、実際面白いものもあったりするのでややこしいやね。街角の客引きギャラリーで版画売られてたヒロ・ヤマガタが、石野卓球とならんでイベントやる“転身”なんか、その典型だと思うけど。*3
オリエンタリズムの塊みたいな、猿之助のスーパー歌舞伎なんかも面白いですしね」
三国志ヤマトタケルだものな。アジア的なものを、過度にオリエンタリズムを強めることで“西洋からみた東洋”として客に提示し、架空のジャポネスクに対するノスタルジアをかき立てたのが宝塚だと川崎賢子が面白い指摘をしているんだが*4、猿之助は更にそこに“誰も知らない伝統文化という歌舞伎”を掛け合わせ、歌舞伎を見ない現代人に訴えかけているわけだ。どちらにせよ、観客を巻き込んで、日本という状況をつきつける表現活動をしているという点で、これら商業演劇は、今回のステージよりよほど“芸術”なんじゃないか」
「話が戻ってきましたね!では次回はもっとお客さんによろこんでもらう仕掛けをして、ちゃんと宣伝もしてもらいたいですね」
「題材は何がいいのかな。要は台詞が七・五調ならなんでもいいんだろ。【歌劇・昭和天皇】なんてのはどうだ?琴の調べに乗って、シテが舞いながら玉音放送を詠うとか見たいなあ!♪し〜の〜び〜がたき〜を〜【ちん・とん・しゃん】(笑)」

*1:二期会のオペラでは、カネゴンとか呼んだらしい。http://www.nn.iij4u.or.jp/~hsat/concert/y2005/zauberfloete050304.html

*2:http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1037.html

*3:http://www.higher-frequency.com/j_news/april05_d/29/2.htm

*4:ISBN:4004309409:title