邦楽叙事詩「スサノヲ」

実相寺昭雄って人、知ってますか?」
と、携帯に電話してきたO青年が問うので
「ウルトラマンやウルトラセブンを演出した人で、今度、京極夏彦の映画も撮る映画監督だが、それがどうかしたかね」
と、先輩らしく尊大に答えると
「ですよね。実は今度、芸大で実相寺昭雄が演出する、邦楽の公演があるんですけどね、一緒に行きませんか?いや、切符はね、あるんですよ。母が行くことになってたんですが、急にいけなくなりまして。ええタダで結構です」
先輩の財布思いのO青年の甘言に乗せられ、連休終盤の5月6日(金)、上野・東京藝術大学奏楽堂に出向いた。
「これはまた血税をつぎ込んで、たいそうご立派な建物だね*1。地方の税金垂れ流し公共施設でも、なかなかこれだけのものはお目にかかれないぜ」
「先輩、またそんなことを・・・ですから藝大も法人化されて*2、自分で稼がなきゃいけないっていうんで、今回みたいな企画をやってるんじゃないですか?」
今回のステージ、正式名称を『藝大21 和楽の美 〜邦楽叙事詩「スサノヲ」〜』といい、邦楽総合アンサンブル第四回となるものらしい。

 演奏芸術センター公演の邦楽総合アンサンブル第四回は、日本神話の世界を採り上げ、多くの神の中からスサノヲに焦点を当ててみました。荒ぶる神スサノヲの話は、「古事記」「日本書紀」「出雲風土記」などに出て来て、強烈な印象を与えますが、詳細不明のところが多い神になっています。
 今回の公演で今までと少し異なるところがあります。それは邦楽演奏の方にやや重点を置いたことです。「天地創造」から「天の岩戸」「オロチ退治」、終曲はスサノヲを祀る現代の祭で構成された音楽によって締め括ります。
 奏楽堂の舞台では、上段を高天原、下段を根の国出雲に見立て、真ん中に天と地を結ぶ道が作られています。この舞台空間に、能狂言・日本舞踊・舞台美術の創造とが相俟って、神話の世界が展開されます。
http://www.geidai.ac.jp/sougakudou/2005/20050506.html

「つまり、藝大の生徒や教授を動員しての、自主公演みたいなもんかね」
「まあ、そういったことだと思います」
「その割には、大層なお客の入りじゃないか」
「藝大の邦楽の教授って、それぞれ流派の家元だったりするんですよ。それでその弟子筋が来てるんじゃないですかね」
なるほど、着飾った妙齢のご婦人の団体は、きっと日舞のお弟子かなにかなのだろう。
さて舞台上を見ると、上手、下手それぞれに3段〜4段の雛段が組まれており、中央に7〜8メートル四方の正方形の舞台が設置されている。やがて開演5分前のブザーとともに、楽器演奏の演者(?)がわらわらと袖から出てくる。その数おおよそ4〜50人。琴を前にする人、三味線を手に携える人、鼓に謡に笛太鼓、最前部には巨大な琴、最後部にはこれも巨大な大太鼓。
「ええっとO君、僕は邦楽というのは全然っ、わかんないんだけど、ちょっと説明してくれるかな?」
「僕もそんなに詳しくはないんですけど・・・まず向って左、でっかい琴は三十弦ですね。すごく良い響きがします。あそこから前段の琴、三味線が箏曲です。その後ろが尺八で、後ろが雅楽ですかねえ。ほら、笙は電熱器で暖めないといけないんです。暖めてますでしょ?それからお神楽、右の前方に並んでるのは謡曲ですね。それから後段が長唄、小唄・・・大太鼓はなんなんでしょうねえ・・・」
「・・・良くわからないんだけど、その、邦楽の人たちっていうのは、いつもいつも、なんちゅうかこういう異種格闘技みたいな、交流戦みたいなことをやるもんなのかね?」
「とんでもない、それぞれ単独でお金とってお客呼べる、一流の人たちですよ。この人たちを一同に集めるだけで、とんでもない苦労があったそうですよ」
「ふううん、なるほど。で、君の○○というのが、あそこに座っている××の・・・」
「先輩、やめてください!近くに関係者がいるんですぅ!」

(この項つづく)

*1:http://www.geidai.ac.jp/guid/huzoku-sisetu/sougakudou.html

*2:http://www.geidai.ac.jp/topic/renaissance.html