「春期限定いちごタルト事件」米澤穂信(創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

諦念と儀礼的無関心を自分の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を。

たとえばその集団の中で個々人が与えられたフィールドの中でそれなりに気持ちよくやっているときに、ある人が自分の範疇を超えて目立った事をしたとして、それが周りの人にとって鬱陶しくてウザいことだと決めつけられ、その行いの目的がたとえ崇高な社会正義であれ自己犠牲的な献身であれ、すべて利己主義だろ自己満足だよねと言われてしまう、そんな場合があったとして。

そこでは爪のある鷹などは鷹である事がイケナイことなので爪を隠すよう一生懸命になって、でも実は誰にだって他人より尖った牙なりトゲなりはもっているから、みんなそれぞれが内に隠した鋭利な部分に内面から突き刺され血を流しながら、そんなことは互いにおくびにださずに、表面では笑って流して同調して、看られてもいない看守の視線を気にしながら、平穏無事に生きようとびくびくしている。

私は社会学者でも精神科医でもないけれど、小学生がカウンセリングに通っているとか、こどもにストレス性の胃潰瘍が増えているとか聞くと、ああ、トゲトゲをうっかり披露しちゃったばっかりに、自分で傷ついてしまったこどもがいるのだなあと、少しばかり心に嫌な陰がさすもんだ。

そんなトゲトゲを一生懸命飼いならそうとする、小鳩くんと小山内さんのお話。id:endingさんは「GOTH」との類似性を指摘されていて、それはまったくそのとおりだと思いつつ
http://d.hatena.ne.jp/ending/20050224#p1
むしろ「怪奇趣味(ゴス)」より「少女趣味(ガーリー)」に走る本作のほうにより、痛々しさを感じてしまう。

あーまたやっちゃったよ、懲りない俺と嘆息しながらいただくのは、発散するアルコールではなく、耽溺する甘いケーキだなと思う方は心に染みる一冊なのではないかと思います。