河出奇想コレクション3題

■『ふたりジャネット』(テリー・ビッスンISBN:430962183X

熊たちが火を使うことを覚えた。そんなニュースが流れるなか、母親の介護に病院に向う車中から、ハイウェイ沿いの暗闇の中に、たいまつの炎を目にする。あれが熊の焚いた火に違いない・・・そんな既視感と非現実感の狭間に切なさが同居する「熊が火を発見する」に身悶えて、以下このシリーズの通読することとする。
さてこの本は、≪すこし不思議≫なお話のアンソロジーだが、漫画に例えると、藤子・F・不二雄というより、おおひなたごう、かな。時空が捩れ突飛な人物が現れ、謎の中国人が謎の数式をファックスで送ってきても、平然とした顔でやり過ごす主人公が活躍する世界は、『犬のジュース屋さん』ISBN:4087826716ュース屋のように確信犯。

■『不思議のひと触れ』(シオドア・スタージョンISBN:4309621821

ものすごく巧みな小説。2人の人間が短時間、会話を交わす、その描写だけで小説が成り立つということに感銘をうける。セリフと動作による感情の動きは、映画作家にも参考になるのではないかな。とはいえ、構成がシンプルなので小説としてはやや地味で、正直のめり込めなかったため、この巨大な作家の真髄の一端にも触れられていないのではと残念に思う。長編にトライか。

■『夜更けのエントロピー』(ダン・シモンズISBN:4309621813

「ケリー・ダールを探して」先生と生徒がレンアイしたらいけませんか?という話が、パラレルワールドでのハンティング合戦を通じて描かれる。おー、日本のアニメと親和性ありそうだ。アニメ作家よ、パクれ! 「最後のクラス写真」いやまさか、ゾンビ小説で泣けるとは。【父親と子供】【教師と生徒】【アメリカとベトナム】、人と人が寄り添って切ないと書く(書かない)。彼も彼女も脆くってすぐに血を流して腐って毒を撒き散らして死が伝染していくそのどうしようもなさを、でも人生とは美しいものだなどと自分をごまかし目を背けたりせず、関係性と自分自身を直視して不恰好に生きていくことを選択する大人の話はビター・テイスト。

〇いずれも表紙を飾る松尾たいこのイラストが絶妙。特に未読の『フェッセンデンの宇宙』(エドモンド・ハミルトンISBN:4309621848
http://www.taikomatsuo.com/book04-7.html
飛び回っている生き物は何?この娘たちの服はどうしたこと?と期待をそそる。久々に海外文学の良短編をたくさん読めるシリーズだったので全巻購入して棚に揃えたい。